MASLD/NAFLD/NASH

増加している非アルコール性脂肪肝/代謝異常に関連する脂肪肝

肝臓は使い切れなかった脂肪分を中性脂肪やグリコーゲンとして蓄える働きがあります。しかし、脂肪分が貯まりすぎるとやがて肝細胞にも影響が起こってしまいます。肝細胞の30%以上脂肪が貯まった状態を脂肪肝といいます。この状態を医療用語では「脂肪性肝障害」と呼んでいます。脂肪肝というと、飲酒によるアルコール性脂肪肝を考えてしまいがちです。たしかに飲酒による脂肪肝は多いのですが、特に飲酒歴もないのに肝臓に脂肪が貯まりすぎてしまう「非アルコール性脂肪性肝障害(NAFLD)」「代謝異常に関連する脂肪性肝疾患(MASLD)」が近年増加しています。MASLDは2020年にアメリカ、ヨーロッパで提唱された新しい疾患概念で、メタボリックシンドロームを基盤病態とし、糖尿病や高血圧、脂質異常症の管理が重要です。MASLDは新しい疾患概念ですが、海外そして日本の研究では、NAFLDと診断された方の96~98%はMASLDと診断が一致すると報告されています。脂肪肝はそれ自体では自覚症状はまず現れず、健康診断などの結果判明することがほとんどです。特に症状がなく、肝炎でもないため、脂肪肝の指摘があっても放置してしまう方も多いのですが、やがて肝細胞が変質して肝硬変や肝がんにも移行しやすい状態ですので、当院までご相談ください。

NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)

英語の頭文字をとってNAFLD(ナッフルディーまたはナッフルドと読みます)と略され
る非アルコール性脂肪性肝疾患は、飲酒歴がほとんどないにもかかわらず、肝臓に中性脂肪が過剰に蓄積されてしまう脂肪肝のことです。原因としては肥満、内臓脂肪型肥満、糖尿病などの生活習慣病が大きく関わっていることがわかっています。
日本では、2012年に大規模な調査がありましたが、その中でNAFLDの有病率は約3割と高率で、2024年現在も高齢化の進行や肥満・メタボリックシンドロームなどの増加に伴って、なお増加していると考えられています。

NASH(非アルコール性脂肪肝炎)

NAFLDには、単純に肝臓に中性脂肪が蓄積されすぎているだけの単純性脂肪肝(NAFL)と脂肪の蓄積によって肝細胞に障害が起こり、炎症や繊維化がみられる非アルコール性脂肪肝炎(NASH=ナッシュ)があります。
どちらもほとんど自覚症状のない疾患ですが、NASHでは肝細胞の障害がすすむことで肝硬変や肝がんに移行するリスクが高くなっています。
肝炎などと異なり脂肪肝は自覚症状がまず現れないことから、健康診断などで指摘を受けてもつい放置しがちですが、NAFLDの罹患者のうち2~3割がNASHであることが報告されているため、NAFLDの疑いが指摘された場合は、まずは医療機関に相談し、生活習慣の改善と必要であれば適切な治療を受けて肝細胞の繊維化をできるかぎり防いでいく必要があります。

非アルコール性脂肪肝の検査

NAFLDには自覚症状がほとんどありませんが、肝細胞の障害によって血中のAST、ALT、γ-GTPなどが異常値を示すようになります。そのため血液検査でこれらの数値を確認することが大切です。特にNASHの場合は肝細胞が炎症によって障害され繊維化していくことで血小板数が低下や、肝細胞の繊維化マーカーであるヒアルロン酸やⅣ型コラーゲンの血中濃度上昇もみられるようになります。
そのため、これらの数値を組み合わせて肝細胞の繊維化状態を算出するFIB4-indexやNAFLD fibrosis scoreといったスコアリングシステムをつかって肝硬変の発症リスクを予測していきます。
これらの検査によってNASHの疑いが強い場合には、さらに超音波やMRIをつかって肝臓の物理的な硬さをみるエラストグラフィ検査をおこない、肝臓に針を刺して細胞のサンプルを採取し、顕微鏡的に繊維化の状態を確認することで確定診断とすることもあります。

非アルコール性脂肪肝の治療

NAFLDと診断された場合、まずは食事や運動など生活習慣の改善が大切になります。その上で必要な場合は薬物療法を行います。
当院の医師は肝臓の専門医に認定されており、その専門的な見地から、患者様それぞれの肝臓の状態を把握し、食事や運動療法などの指導、適切な薬剤選択などを丁寧に行っています。

生活習慣の改善

NAFLDと診断された場合、まずは体重を減らすことが大切です。それによって有意に肝組織の改善が認められます。NAFLDの背景には多くの場合生活習慣病がともなっていますが、食事においては栄養バランスを保ちながらのカロリー制限が大切です。また適切な有酸素運動の習慣化、睡眠の質の向上などを行うことで、体重減少とともに生活習慣病の改善も期待することができます。

薬物療法

上記のような生活習慣の改善を続けても効果があがらない場合や、診断当初から肝硬変への移行リスクが高い場合は、薬物療法を行うことになります。糖尿病、脂質異常症など生活習慣病の基礎疾患がある方はその治療を行っていくことで肝機能の向上も期待できます。
NAFLD、NASH単体の治療としては、ビタミンE剤の内服が有効とするデータがありますが、日本においては健康保険適用されておらず、自由診療となります。
また米国ではオベチコール酸の投与が有効との研究があります。

MASLD

代謝異常に関連する脂肪性肝疾患(Metabolic dysfunction associated steatotic liver disease:MASLD)とは

脂肪肝は、これまで飲酒にかかわるアルコール性のものと、肥満など生活習慣にかかわる非アルコール性のものに分類されてきました。しかし、肝硬変、肝がんへの移行リスクとともに、脂肪肝自体が脳梗塞や心筋梗塞などの循環器疾患の原因として注目されていることなどから、代謝異常に関連する脂肪肝を、アルコール性、非アルコール性の違いにかかわりなく、またウイルス性肝炎などの病歴に関係なく代謝異常関連脂肪肝と定義することが世界的な肝臓に関する学会で2020年に提唱されました。代謝異常に関連する脂肪性肝疾患は英語のMetabolic dysfunction Associated Steatotic liver DiseaseからMASLD(マッスルディーまたはマッスルド)とも略称されています。2024年3月現在、MASLDの日本語訳については日本消化器病学会、日本肝臓学会で検討中の段階です。
脂肪肝の原因として代謝異常が強くかかわっていることの条件としては、おおまかには脂肪肝に肥満または2型糖尿病が合併しているか高血圧、内臓脂肪型肥満など2種類以上の代謝異常が合併している場合、MASLDと診断されます。
健康診断や一般内科における血液検査で肝機能系の数値に異常が指摘され、上記のような代謝異常がある方は、一度当院までご相談ください。

代謝異常関連脂肪肝(MASLD)の診断

脂肪肝が発症していて、それに肥満か2型糖尿病または肥満のない人でも2種類以上の代謝異常が合併している状態がMASLDと定義されており、それに従って診断します。
脂肪肝の診断のためには、血液検査と腹部エコー検査などの画像検査で行います。また確定診断のために肝生検を行うこともありますが、診断のための必須条件ではありません。

代謝異常関連脂肪肝(MASLD)の診断規準

まず脂肪肝であることが前提で、さらに次の条件①~③のどれかが合併している場合にMASLDと診断されます。

① 肥満状態 アジア人の場合BMIが23.0以上
② 2型糖尿病 糖尿病の診断基準に従う
③ 2種類以上の代謝異常
  • 腹囲がアジア人男性では90cm以上、女性で80cm以上
  • 血圧が130/85mmHg以上か高血圧の薬物治療中
  • 脂質異常症または脂質異常症の薬物治療中
  • 耐糖能異常(高血糖または高HbA1c)またはインスリン抵抗性高値など糖尿病予備軍

中高年では、かなりの方がこの条件にあてはまる可能性があります。これらの条件に少しでも合致する項目がある場合は、当院までご相談ください。

代謝異常関連脂肪肝(MASLD)と非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の違い

代謝異常関連脂肪肝(MASLD)は新しい脂肪肝の分類方法です。今までは、アルコール性であるか非アルコール性であるかで、ALD(アルコール性脂肪性肝疾患)やNAFLD(NAFL/NASH)のどちらに属するかという分類でした。
MASLDにおいても、脂肪肝の原因となりうる、大量飲酒によるアルコール性肝障害などの他の原因となる肝疾患の除外診断は必要ですが、脂肪肝に代謝異常が合併していることが診断の条件です。海外・日本の研究では、NAFLDと診断された方の96~98%はMASLDと診断が一致すると報告されています。脂肪肝の原因が代謝異常関連以外の原因と合併することもあります。

代謝異常関連脂肪肝(MASLD)の検査

MASLDが疑われる場合、以下のような検査を行います。

血液検査

肝臓の異常を示すAST、ALP、γ-GTPなどの肝酵素、アルブミンなどのほか、肝臓の線維化の状態を示す血小板数、肝臓の線維化マーカーなどをチェックします。また、代謝機能に関する血糖値、HbA1c、中性脂肪、LDLコレステロール、HDLコレステロールなどの数値も確認します。これらの数値を組み合わせてFIB4-indexやNAFLD fibrosis scoreといったスコアリングシステムを使って肝組織の線維化の進行度、リスクなどを算出していきます。

腹部超音波検査(エコー)

腹部超音波検査はお腹に医療用のジェルを塗ってプローブとよばれる超音波の発受信器をあてるだけの無侵襲な検査です。超音波が体内の組織に吸収されたり反射したりする性質を利用して検査したい対象の内臓を画像化することができます。肝臓の超音波検査では、脂肪肝の状態や繊維化の進行度合い、肝がんの有無などが確認できます。超音波検査は母親の胎内にいる赤ちゃんの検査にも使えるほど安全な検査です。

エラストグラフィ検査

フィブロスキャンは剪断波(せんだんは)とよばれる特殊な超音波による振動を肝臓にあてて、肝臓の硬さや肝脂肪の量を測定する検査です。肝細胞が繊維化していると、物理的に肝臓は硬くなるため、肝硬変のリスクを測定するための肝生検に変わる無侵襲の検査として注目を集めています。フィブロスキャンはトランジェントエラストグラフィとも呼ばれNAFLDの検査の項目でも説明した超音波エラストグラフィと同じ検査です。当院の最新の超音波検査では、肝臓の硬さと肝線維化の評価(硬さをみるエラストグラフィ検査(SWE: Shear wave Elastography)や超音波減衰法による肝脂肪定量(ATI)が可能で、フィブロスキャンで得られる情報以上に、肝臓の脂肪化や線維化を「見える化」することが可能です。
超音波による検査のため、放射線被曝やMRIのような騒音問題もなく、まったくの無侵襲な検査ですので、何度でも繰り返し実施できることから、脂肪肝の進行状態や治療効果を測定する方法として最適です。