肝臓内科とは
肝臓内科とは、主に肝臓に起こる様々なトラブルや疾患を診断し、生活指導や薬物療法などの内科的な立場から治療を行っていく診療科です。
肝臓は必須の栄養分の一つであるたんぱくを合成し栄養分を蓄積する役割と、身体に入った毒素を解毒・分解する役割、消化に必須の胆汁を分泌するという役割を担っている臓器です。
健康診断で肝機能の数値を指摘されたなど、少しでも気になることがある場合は、放置することなく、肝臓内科を受診して、健康寿命を保つようにしましょう。
当院では、日本肝臓学会の肝臓専門医に認定された医師が、その豊富な臨床経験や知見をもとに、ウイルス性肝炎やアルコール性肝炎などから、生活習慣からくる脂肪肝、肝硬変などの重篤な疾患まで肝機能の障害に関して幅広く診療しております。診察の結果は患者様にわかりやすく丁寧に説明し、患者様のライフスタイルにあわせた治療計画をたててまいります。肝臓についてのお悩みがある方はささいなことでもかまいませんので、お気軽に当院までご相談ください。
肝臓の病気についてセルフチェック
以下のようなお悩みや症状があるようでしたら、当院までご相談ください。
- ここしばらく、血液検査を受けていない
- 血液検査などで肝機能に関する数値の異常や脂肪肝の可能性などを指摘された
- これまでB型やC型といったウイルス性肝炎の検査を受けた経験がない
- 家族や血縁者に肝炎やその他の肝臓疾患にかかったことがある人がいる
- かなり以前に輸血を受けたことがある
- 使い捨てではない鍼での鍼治療を受けた経験がある
- ボディピアスがある、タトゥーを入れている
- 大酒家、毎日飲酒をする
- BMIが25.0を超えている(肥満)、腹囲が男性で85cm、女性で90cmを超えている(内臓脂肪型肥満)
- 身体がいつもかゆい
- 疲れやすかったり、いつも身体がだるかったりする
- 足にむくみがある
- お腹が張っている状態が続く
- 食欲が無い状態が続く、体重減少がある
- 爪や白眼の部分が黄色くなってきた
など
肝臓は、初期のうちはほとんど自覚症状もなく「沈黙の臓器」と言われます。そのため多少の不調を放置してしまうと、最悪の場合生命にもかかわる重篤な事態となってしまうこともあります。上記のようなちょっとしたサインも見逃さず、おはやめにご相談ください。
肝臓病の異変を発見するための血液検査
肝臓が正常な働きを行うために、酵素など様々な物質が分泌・利用されています。肝臓に障害が起こると、普段は血中に流れ出ることのない物質が血中に流れ出たり、逆に血中の濃度が低下したりします。そのため、血液検査で以下のような成分の数値を計測することで肝臓の健康状態を調べることができます。
ALT(GPT) | 腎臓にごく微量含まれる他はほとんど肝臓にのみ含まれる酵素です。肝細胞に障害が起こることで、血中のALTが高値となります。次のASTとセットでみることの多い項目です。基準値は5~45U/Lの範囲内です。 |
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AST(GOT) | 肝細胞に障害が起こると、血中に大量に流れ出る酵素です。ただし、ASTは心筋や骨格筋などにも含まれるため、これらが障害されたときも血中濃度が高値になることがあるため、前記のALTとセットでみることが多い検査項目です。基準地は10~40U/Lです。 |
γ-GTP(γ-GT) | 主に肝臓の解毒作用で活躍する酵素です。肝機能と、肝臓でつくられる胆汁が胆のうを経て十二指腸に至る胆汁の通り道に異常がある場合に、血中濃度が高値になります。アルコール性肝炎や脂肪過多などによる肝機能障害が考えられます。男性と女性で基準値は異なり、男性70U/L以下、女性30U/L以下を規準としますが、検査機関によってこの数値は異なることもあります。 |
ALP | 肝臓のほか、胆汁の通り道、小腸、腎臓、骨などに異常がある場合に血中濃度が上昇するアルカリ・ホスファターゼという酵素です。基準値は検査機関によって異なりますので、各検査機関の結果分析に従って考察します。 |
アルブミン | 肝臓でつくられるたんぱく質のなかでももっとも多くを占める物質です。アルブミンの働きは血管内に水を保持することです。肝臓の機能が障害されてくるとアルブミンの血中濃度は低下してきます。基準値は3.8~5.2g/dLです。 |
総ビリルビン | ビルビリンはヘモグロビンが分解されていくつかの工程を経た後にできる物質です。肝臓の機能が障害されたり、胆汁の通り道に異常があったりすると、血中濃度が高値になります。基準値は0.3~1.2mg/dLです。 |
そのほかにも、ウイルス性肝炎に感染しているかどうかを調べるための、HBs抗原検査や、HCV抗体検査なども肝機能の検査に使用されることがあります。
よくある肝臓の病気
肝臓の細胞が障害される原因としては、主に炎症、肝細胞が脂肪に置き換わってしまう脂肪肝、肝細胞が炎症などから変性してしまう肝硬変、悪性新生物(肝がん)などですが、障害の発症要因としては、遺伝、食生活などの生活習慣、飲酒や喫煙などが挙げられます。
なかでも特に多いのは肝細胞がなんらかの理由によって炎症をおこす肝炎で、その原因としてはウイルス感染、アルコールの過剰摂取、肥満・高脂血症・糖尿病などの代謝異常が考えられます。
肝炎は6か月以内に治まる場合を急性肝炎、それ以上長期的に続くものを慢性肝炎と分類しています。また、急性肝炎で生命にかかわるほど激しい症状をおこすものを劇症肝炎と言い、肝機能が急激に低下し、肝臓以外にも呼吸困難など全身に症状が現れるもので、貝毒などによって発症することが知られています。
B型肝炎
B型肝炎ウイルス(HBV)による感染性の肝炎です。HBVは主に血液や精液、膣分泌液などの体液によって感染します。感染経路としては覚醒剤などの注射器の共有、タトゥー、ピアッシングなど感染者の血液への接触、性行為などが挙げられます。またHBVは体外に出た自然空間内で7日間寄生主なしで生き続けることができるとされており、血液や体液などがついたタオルなどから感染することもあります。
感染者の母親から出産時などに赤ちゃんが感染することもあり、その場合高い確率で慢性B型肝炎となります。慢性化すると、あまり自覚症状が現れず徐々に肝細胞が壊れていってしまい、気づいた時には肝硬変や肝がんを発症していたなどということもあります。
一方、成人が感染すると、ほとんどの場合急性B型肝炎となります。急性の場合、症状として、吐き気・嘔吐、食欲低下、全身の倦怠感、褐色の尿、黄疸などが現れます。多くは治療により完治しますが、時に劇症肝炎となり最悪の場合生命に関わることがあります。
B型肝炎の治療はインターフェロンの注射、または核酸アナログ製剤(薬効をあらわすように人工的につくられた核酸)の内服などが効果的です。またB型肝炎ワクチンも定期接種となっており、効果的に予防することが可能です。
C型肝炎
C型肝炎はC型肝炎ウイルス(HCV)による感染症です。HCVは主に血液や体液による感染ですが、B型肝炎のような性行為によるものは稀です。感染経路としては、注射器や鍼、カミソリなどの共有、タトゥーや非衛生なピアッシングなどが考えられます。
C型肝炎の場合、非常に自覚症状に乏しく、また劇症化することが少ないため、感染しても気づかないでいることがあります。感染した場合、3割程度は半年ほどでウイルスが体外に排出されて治癒しますが、残り7割は慢性C型肝炎となります。
慢性C型肝炎となると、自覚のないまま長い時間をかけて肝細胞が繊維化していき、肝硬変や肝がんを発症する可能性が高くなります。実際に日本での肝硬変、肝がんの原因としてこのC型肝炎が一番多いとされています。
C型肝炎の治療は、かつてはインターフェロンの注射が主流でしたが、現在では、より副作用の少ない直接作用型抗ウイルス薬(DAA)の服用が主流となっており、これによって95%の患者様でウイルスを体外へ排出させることができるようになっています。
脂肪肝
代謝されずに残った中性脂肪は筋肉や内臓周辺のほか、肝臓内にも蓄積されます。この肝臓に蓄積される中性脂肪が肝細胞の30%以上になった場合を脂肪肝といいます。脂肪肝になっているだけでは、特に自覚症状はありませんが、メタボリックシンドロームを起こしやすい状態になってしまうことや、適切な治療を行わず放置することで脂肪の蓄積が増えると肝細胞が障害されてしまい、肝硬変や肝がんが発症しやすくなるなどの問題があります。
原因としては、飲酒、肥満などの生活習慣が第一に挙げられ、特に飲酒は脂肪肝の原因としてもっともポピュラーなものです。しかし、近年、飲酒習慣のない人も脂肪肝の状態になる非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)が増加しており、進行して肝炎を起こした状態である非アルコール性脂肪肝炎(NASH)となることについては別項で説明しました。
非アルコール性脂肪肝炎/代謝異常に関連する脂肪性肝疾患(MASLD)
非アルコール性脂肪肝炎はNASHともいい、あきらかな飲酒歴がみられないにもかかわらず、肝臓の細胞にアルコール性肝炎のような炎症や繊維化がみられる疾患です。NASHは、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と呼ばれる飲酒歴やウイルス感染などにかかわりない生活習慣から起こる肝障害の一種として考えられています。最近では、肥満、糖尿病やメタボリックシンドロームなどの代謝異常は脂肪肝の病期進展に関わるMASLD(代謝異常に関連する脂肪性肝疾患)という疾患概念が注目されています。
肥満や糖尿病、脂質異常症(高脂血症)といった生活習慣病、メタボリックシンドロームによる脂肪性肝疾患は、一般的な慢性肝炎と同様、徐々に肝細胞が線維化していき、気づいたときには肝硬変や肝がんに移行していることも多いため注意が必要です。
血液検査による肝機能の数値にも異常は出ますが、MASLDであるかどうかの判別はできません。そのため、超音波検査やCT検査など各種画像検査の他、最終的には肝生検(針を刺して直接肝臓の細胞のサンプルを採取する方法)を行うこともあります。MASLDの診断では、脂肪肝の診断が必須です。脂肪肝の診断において超音波検査は重要です。当院の最新の超音波検査では、肝臓の硬さと肝線維化の評価(硬さをみるエラストグラフィ検査)(SWE: Shear wave Elastography)や超音波減衰法による肝脂肪定量(ATI)が可能で、肝臓の脂肪化や線維化を「見える化」することが可能です。
治療としては、生活習慣が原因となっていると考えられる場合、カロリー制限、たんぱく質・脂質制限を中心に食生活を改善し、運動習慣をつけるといった方法で生活習慣の改善をおこなっていき、それだけでは不足する部分をビタミンE製剤などの薬物療法を行います。
自己免疫性肝炎
自己免疫性肝炎は、肝細胞が炎症によって徐々に壊れていく疾患で国の難病に指定されています。原因ははっきりと解明されていませんが、免疫グロブリンの血中濃度などから自己免疫が関係しているのではないかと考えられています。
2004年の調査では、全国で9000人程度の罹患者数であったものが、2018年の調査では全国で3万人程度と3倍強増加しています(難病情報センターの調査による)。男女非では4対1と女性に圧倒的に多い疾患ですが、高齢男性に発症することもあります。
治療はステロイド薬の内服が有効で、ASTやALTなどに改善がみられます。しかし服用を中止すると炎症が再燃してしまうこともあり、医師の指示にしたがってしっかりと治療を続ける必要があります。完治療法が確立していないため国の難病に指定されています。
原発性胆汁性胆管炎
胆汁は肝臓でつくられて、胆管という管を通って胆のうに一時的に蓄えられ、胆のうから十二指腸に送られます。肝臓内の細い胆管がなんらかの原因で詰まってしまい、胆汁の流れが滞ってしまうのが原発性胆汁性胆管炎です。はっきりした原因はわかっておらず国の難病に指定されていますが、血液中に抗ミトコンドリア抗体の増加がみられることから、自己免疫がかかわっている可能性が指摘されています。4対1の割合で成人女性に多い疾患で、罹患者数は2018年の調査(難病情報センター調査)で全国に37000人程度でしたが、すこしずつ罹患者数は増えていると考えられています。
37000人のうち多くの方は軽症で、胆管が障害されているとはいえ胆汁の流れが確保できているため、自覚症状はほとんどありません。しかし少し進行すると高い確率で皮膚にかゆみが起こり、また黄疸がみられることもあります。さらに胆汁の流れが悪くなると肝機能への影響も現れ、最終的には肝硬変、肝がんなどに移行することがあります。また胃食道静脈瘤などが起こることもあります。
こうした事態をおこさないために、適切な治療を行う必要がありますが、根治療法は今のところ発見されておらず、胆汁の流れをよくする治療とこの疾患によって起こる合併症に対する治療を対症的に行っていくことになります。
薬剤性肝障害
名前のとおり、服用している薬剤が原因となって肝機能に障害が起こっている状態です。原因となる薬物は、医療機関で処方されたものだけではなく、市販薬なども含まれます。
原因は薬物固有の副作用による中毒性のものと、患者様の体質による特異体質性のものの2つが考えられます。
自覚症状はあまりはっきりと現れない場合が多く、健康診断や他の疾患で行った血液検査の結果から判明することが多いことが特徴の一つです。重症になった場合、全身の倦怠感、食欲の低下、吐き気や嘔吐、褐色尿や黄疸などの症状が現れることもあります。
肝硬変
肝臓が長期間炎症にさらされることで、徐々に肝細胞が障害されて変化し繊維化してしまった状態です。肝細胞が繊維化することで肝機能を果たすことができなくなります。肝臓は大きな臓器で、その85%の細胞を失ってもまだ機能を果たすことができると言われますが、そうした予備機能を超えて繊維化すると、肝臓の代謝、解毒・分解、胆汁産生という3大機能が失われ肝不全の状態となって最悪の場合生命を落とすことになります。
肝機能が正常に働かないことによって、全身の倦怠感、黄疸、肝性脳症、腹水などの症状が現れ、肝がんを発症しやすくなるとともに、胃食道静脈瘤など重篤な合併症も発症することになります。
肝がん
肝臓に発生するがんが肝がんです。発症の要因から、肝細胞ががん化する「原発性肝がん」と、他の組織でおこったがんが肝臓に転移して発症する「転移性肝がん」に分けて考えます。
原発性肝がんは、ほとんどの場合慢性肝炎や肝硬変を放置することから発症します。そのため原発性肝がんの予防としては、脂肪肝、肝炎など肝機能障害を早期の段階で適切に治療し、肝細胞の繊維化を進行させないことが大切です。
肝がんは初期の段階ではほとんど自覚症状はありません。進行してくると腹部にしこりが触れたり、圧迫感や腹痛といった症状が現れたりしますが、さらに進行した場合、肝機能不全による様々な症状が現れます。
治療は外科的治療のほか、化学療法、放射線療法など様々な治療法を状態によって適切に選択して行います。